隣の部屋には、仲の良い夫婦と一匹の小さな猫が住んでいた。毛並みは真っ白で、まるで雪の妖精のようだった。その夫婦は愛情深く猫を可愛がり、どこへ行くにも一緒だった。しかし、ある日を境にその猫はマンションの廊下にポツリと置き去りにされてしまった。新しい家を探して引っ越しした夫婦。その日から猫は毎日、彼らを待つようになった。朝、夫婦がいた部屋の前に座り、夜になってもその場を離れようとしない。その姿はまるで、「帰ってきて」と訴えているかのようだった。近所の住人たちもその切なげな姿に心を痛めたが、どうすることもできなかった。数週間後、猫が部屋の前で力なく横たわる姿が見つかった。一度も会えぬ飼い主を待ち続けた体は、すっかり痩せ細っていた。彼らの愛情が深かった分、猫の寂しさもまた深いものだったのであろう。その後、猫を引き取る者が現れたが、新しい家でも彼の心の一部はずっと遠くにある部屋の前に置き去りにされたままだった。