不意に我が家へ迷い込んできた、汚れた小さな子猫。外の危険から守るため、必死に捕まえたその瞬間から、この猫との生活が始まった。しかし、彼はひねくれていて、私の手を引っかいたり、自分の餌を食べ終えると遠慮もなく私のところへ来て横取りする始末。それでも、いつしかその仕草にも愛らしさを感じるようになり、私たちは家族として暮らし始めた。 しかし、この猫には一つの特徴があった。どんなに撫でても、どんなに暖かい環境を提供しても、一切「ゴロゴロ」と喉を鳴らさないのだ。この頑なさは、猫とは思えないほどだった。 そんなある寒い夜のこと。毛布を広げてくつろいでいると、珍しく彼が近づいてきた。ぎこちない動きで胸の上に乗り、小さな頭を私に寄せた。そして、私の腕の中でそっと目を閉じると、「ゴロゴロ」という小さな音が響いた。 それは初めて聞く音だった。心が暖かくなり、思わず涙がこぼれそうになる。彼は一瞬だけ目を開け、私をじっと見つめた。その瞳はまるで、「僕はここにいてもいいの?」と問いかけているようだった。 「そうだよ、お前はうちの子だよ」と囁くと、彼は安心したように再び目を閉じ、さらに大きな「ゴロゴロ」を響かせて、私の胸で眠りについた。それは、たった一度だけの特別なゴロゴロ。何にも代えがたい、小さな奇跡だった。