私は、最初から愛というものを知らなかった。母猫の記憶すらなく、生まれてすぐ捨てられたのだろう。けれど、あの優しいお姉さんが毎日会いに来てくれたから、不幸だと思ったことはなかった。学校帰りの彼女は、狭い路地裏で私に餌をくれたり、そっと撫でてくれたりしていた。彼女がいるだけで、寒さや孤独なんて忘れられた。でも、ある日彼女は真剣な表情で「ごめんね、都会の大学に行くことになったの」と涙を浮かべながら告げた。「たまに会いに来るから」と約束してくれたものの、それ以降、彼女は戻ってこなかった。そして、新たに現れた少年に拾われた私だったが、その暮らしも長くは続かず、いつしか私は再び捨てられた。それからの私は、かつてのお姉さんがいた路地裏に戻り、ただ彼女を待ち続けた。どれほど時が流れたのだろうか。諦めかけていたその時、「久しぶり」と懐かしい声が聞こえた。お姉さんだった!「もう離れないよ、これからはずっと一緒」と涙を流す彼女の姿に、再び生きる喜びを感じた。どれだけ辛い日々でも、愛があれば幸福になれると、この時思い知ったのだ。