僕はかつて飼い主に飼われていた犬だった。しかし、その日々は幸せとは程遠いものだった。毎日のように怒声が飛び交い、何を間違ったのかわからないまま怒鳴りつけられる。その恐ろしい顔と言葉が原因で、僕はいつしか食欲を失い、痩せ細っていった。それでも、どこにも行く当てがなく、ただ怯える毎日を耐えるしかなかった。ある日、そんな生活に突然の変化が訪れた。玄関先で飼い主が大声を張り上げ、その後不意に訪問者が部屋に入ってきた。その人物は穏やかな顔をした男性で、近づいてくる彼を見ると本能的に体が強張った。しかし彼の手が僕の体に触れた瞬間、その優しさに戸惑いながらも心が少しだけほぐれるのを感じた。その男性は僕を連れ出し、新しい家へと迎え入れてくれた。そこでは水と食事が用意され、恐る恐る口に運ぶと、それはこれまで食べたどんなものよりも美味しかった。それから彼の瞳に初めて見た"優しさ"というものに気づいていく。しかし問題が全て消えたわけではなかった。首輪を見ると恐怖が蘇り、散歩にも応じることができなかった。だが、彼は無理に迫ることはせず、「散歩はお前が大丈夫になったらでいい」と諭し、優しく僕を撫でてくれた。その一つ一つの行動が少しずつ僕の恐怖を和らげていく。彼の愛情を徐々に理解する中で、僕は「安心感」という暖かい感覚を知った。かつて僕を傷つけたのも人間だったが、僕を救い出してくれたのも人間だった。今では彼と共に歩み、新たな信頼を築けるようになった。怖いと感じることもまだあるけれど、彼がそばにいてくれる限り、僕はもう二度と立ち止まらないと思えるようになったんだ。