私は八年前、獣医師の免許を取得し、大学付属の動物病院で働き始めました。当時、上司の大沢は、獣医はビジネスであり慈善ではないと常々言っていましたが、私は彼の考えを理解することができず、彼が嫌いでした。ある深夜、十九歳になるアメリカンショートヘアの猫『佐吉』を連れた老婆が訪れました。佐吉は重い病状にあり、私は一晩中様子を見るために預かることにしました。しかし、翌日連絡が取れず、治療費も支払われない状況に。佐吉は結局、私の家で世話することになり、そこで不思議な体験が待っていました。佐吉が突然言葉を発したのです。彼は以前の飼い主のこと、自身の思っていること、さらには病院内の秘密までも話しました。佐吉との時間は短かったですが、彼との会話は私の獣医師としての価値観を大きく変えたのです。彼の死を経て、私は大沢の真意を理解し、新たな視点で医療に向き合うことができるようになりました。