「これ、本当に特許にならないのか?」 その疑問が頭をよぎったのは、古びた工場の片隅で元電子技術者の田中さんと話していたときだった。田中さんは、かつて大手電子機器メーカーで数々の革新を生み出した人物だ。しかし、彼が誇らしげに見せてくれたのは、普通の人にはただの“箱”にしか見えないものだった。「これが、俺の人生を変えた秘密兵器だ」 そう語る彼の顔には、少しだけ誇らしさが浮かんでいた。その“箱”は、一見するとただの金属ケース。しかし、内部には誰もが思いつかなかった独自の回路が仕込まれていた。そのアイデア自体はシンプル。しかし、その発想に到達するのは至難の業だ。「じゃあ、なぜ特許を取らなかったんですか?」 私が尋ねると、田中さんは笑いながら答えた。「特許にしたら終わりだよ。特許ってのは、アイデアを公開することだからな。本当に価値があるものは、隠してこそ価値があるんだ。」